バスに乗り込むと、座席は半分ほど埋まっていた。
ギョレメが始発ではないようだ。
そして、ギョレメで満席となった。
バスは事前情報通り、立派なバスだった。
各シートには液晶モニターも備えつけられ、テレビや映画が見られるようだ。
(トルコ語なので、見ることはなかったが)
しかしシートは通路をはさんで2×2=4列の、通常の観光バスタイプだった。
自分の横にも既に乗客が座っていた。
黒っぽいスーツを着て、髪型はオールバックで髭を生やした、一見怖そうな人だった。
バスが動き出してしばらくすると、お茶とお菓子が配られた。
トルコの高速バスにはサービス担当の給仕係が乗車しており、
お茶とお菓子のサービスがあるのだ。
その際、黒スーツ氏は、窓際席の自分にお茶を取ってくれたりして、
実はやさしい人のようだ。
とは言え、この状態で10時間は結構キツイぞ。
街明かりもまばらになりだした頃、雨が降って来た。
そんな折、黒スーツ氏がおもむろに席を離れた。
トイレにでも行ったのかと思っていたが、一向に戻ってこない。
どうやら下車したらしい。
トルコの高速バスは出発地と目的地を一対一で結んでいる訳ではなく、
沿線で自由に乗り降り出来るようだ。
2シートを独占できるようになり、ラッキーだと思った。
雨はかなり激しくなっていた。
バスは明かりのない荒野の中の道を走っているらしかった。
時折、暗闇の中を稲妻が走るのが見えた。
その度にバスの中が紫色に染まった。
トルコの旅程も折り返し地点だ。
言葉もまともに通じない、未知の世界。
戸惑いや高揚。
国内にいては、もはや感じることが出来ない事かも知れない。
十代の頃は、国内の移動であっても、それは一大事であって、
一人で都会に行った時などは恐怖にも似た思いを抱いていた。
今は、目的地に何があるかを知っている。
しかし、色々と知りすぎたために、目的地そのものを失ってしまってはいないだろうか。
何かを得ることは、何かを失うこと。そんなステレオタイプな講釈はくそくらえだ。
窓を打つ雨の音をかき消すように、
頭の中ではフラワーカンパニーズの深夜高速がエンドレスで流れていた。
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