北門ゲートを出ると、バスのロータリーらしきものがあり、
それを囲むように建てられた一続きの建物があった。
何軒かのテナントが入るその建物で営業していたのは一軒の土産物屋だけで、
あとは空物件となっていた。
閑散としている。
嫌な予感はしていた。
土産物屋の店主と目があった。
自分の心を見透かすように、
「ここにはバスは停まらないよ」と、彼は言い放った。
『地球の歩き方』には、北門ゲートにもバスが停まると書いてあった。
地球の歩き方には何度となく泣かされて来たが、今度ばかりは。
都市部ならいかようにも挽回できるが、
このような僻地で足を奪われると、死活問題だ。
とは言え、イズミール行きのバスの時刻もあるので、途方に暮れてもいられない。
確かヒエラポリス-パムッカレのエリア内は無料のバスが巡回していたので、
それで来た道を引き返すのが最短ルートと思われた。
しかし、エリア内に再入場出来るかは分からない。
ゲートは自動改札で、チケットのバーコードを読み取るようになっている。
試してみると、エラーの赤ランプが点灯した。
予想通り、再入場はできないのだ。
仕方ないので、ゲート横の詰所にいるスタッフに再入場を懇願する事にした。
そう言えば以前もこんな事があった。
ローマのヴァチカン美術館に行った時も、不可抗力で館外に出るしかなかった。
未だ見ていない作品があって、
しかし数時間待ちの入場行列に再び並ぶのは現実的に不可能だったので、
非常口脇にいた警備員に懇願して、こっそり入れてもらった事がある。
スタッフに自分の置かれた窮状を切々と説明し出したところ、
ちょっと待てといった素振りで何処かに電話をし出した。
入園管理の責任者らしかった。
受話器を『ほら、話せ』と言った感じで渡されたので、受話器に向かって状況を説明した。
話しは通じたらしく、何とか再入場をさせてもらった。
ちょうど近くに巡回バスが停まっていたので、そこに駆け寄った。
運転手に話しかけると、
「これから昼休みだから、運転再開は1時間後だ」と。
待てないなら歩くしかないねと。
どこまで歩けば良いか聞くと、カラユハット村か、パムッカレ村だと。
カラユハット村はここより更に山の上にある村で、
距離的にはパムッカレ村に向かうよりは若干近いようだったが、
見知らぬ地に向かうリスクは冒せないので、朝来たパムッカレ村へ戻る事にした。
『せっかく再入場させてもらったのにゴメン』と、
ゲートのスタッフに気付かれないよう、静かにゲートを出た。
パムッカレ村へ向かう道は下り坂だったので、体力的にはきつくなかった。
パムッカレの台地を迂回するように道は続いていた。
石灰棚の白い崖を常に左手に見ながら進めば良いので、道に迷う心配もなかった。
ただ、この旅行で最もテンションは低かった。
道の両脇は手付かずの草原がひろがり、大型の哺乳類は滅多に出没しないのだろう、
自分の回りを数匹の虫が嬉しそうに、この道程のあいだずっと飛び回っていた。
プラス思考で、ハイキング出来て良かったと思う事にしよう。
40分ほど歩いて、パムッカレ村に戻って来た。
コメント